冬の読書:2

December 28, 2011 | 15:02  |   | 

どこから行っても遠い町:川上 弘美

20111228.jpgそれぞれ違った主人公の一人称による11編の独立した短編小説ですが、登場人物が少しずつつながっていて、全体を通して小さな町の群像劇のようでした。
川上さんの作品にしてはずいぶんと地味な印象がありましたが、独特の言葉遣いや暗さ、不気味さに惹かれました。

どの主人公にもちょっと影があって、ものがなしさの漂うお話が多かったです。「ロマン」というたこ焼き屋さんが度々出てきて、なんだか居心地がよさそうでわたしも行ってみたいと思いました。そういえば映画『茶の味』にも同じようなお好み焼き屋さんが出てきたなー。あそこの店名は「ロマンチ」でした(笑。
それで、『夕つかたの水』でロマンのアルバイトとして登場した赤い口紅の「あけみ」さんが、『蛇は穴に入る』では介護士の谷口くんに「化粧の濃いおばさん」と思われ、『濡れた女の慕情』では同じアパートに住む川原清に「ただのばばあ」呼ばわりされ、『貝殻のある飾り窓』では「絵にならないおばさんだなぁ」と。そんなあけみさんの登場が、とてもおもしろかったです。知らない人から見た自分の印象ってどんな感じだろうか。

『貝殻のある飾り窓』がわたしは一番好きでした。牟田菜摘という主人公の後輩がとても印象に残りました。彼女の言動に心がざわつきました。彼女のような人が周りにたくさんいませんように。
最後の『ゆるく巻くかたつむりの殻』の主人公は意外な人でした。
みんな高望みをしているわけではないのに、生きているだけでつらいことはいっぱいふりかかってくる。そのどうしようもなさみたいなのが、最後にどーんときてしまった。それでもみんな、淡々と生きていくのだけど。
人生は短くて、悩んでいるうちにあっという間に終わってしまいそうです。そして終わったあとはずっとずっと長いんだろうな。それでも、誰かの記憶の底で自分のかけらのようなものが生き続けるなら...。

表紙の絵がとてもすてきで、この作品にぴったりだと思いました。