[ 愛読書 ] Archive
冬の読書:3
パスタマシーンの幽霊:川上 弘美

それで、気を取り直してまた川上さんなんですが、クウネルの連載で何度か読んだこともあってあっという間に読み終わりました。面白かったけど、思い出そうとすると全部忘れてたりして...。独立した短篇集ですが、時折登場人物がつながっていたりして「お?」となるあたりは楽しい。おかまの修三ちゃんがとってもよかったけどな。突然のコロボックルの登場にもちょっとときめいたのですが、何度も出てくるうちになぜか疎ましく感じてしまいました。
ここ数年の川上さんの作品は順を追って読んでいないので、どれがいつ書かれたものなのかまったく知らないのですが、初期の頃の楽しい悪夢を見ているようなぞくぞく感はほとんど消えている。まめに川上作品を読みあさってる母も「最近のは全然ダメだけど、たまにちょっとましなのがあるわー」とすすめてくれます。『蛇を踏む』のような作品がまた生まれるといいな。だけども、やっぱり川上さんの文章は読んでいて安心します。
この本自体第2段らしくクウネル連載第1段『ざらざら
あと一番最後の、恋人にふられた女の子のおはなしもとても好きでした。なんかわかるぅー!ちょっと泣きながら読みました。
冬の読書:2
どこから行っても遠い町:川上 弘美

川上さんの作品にしてはずいぶんと地味な印象がありましたが、独特の言葉遣いや暗さ、不気味さに惹かれました。
どの主人公にもちょっと影があって、ものがなしさの漂うお話が多かったです。「ロマン」というたこ焼き屋さんが度々出てきて、なんだか居心地がよさそうでわたしも行ってみたいと思いました。そういえば映画『茶の味』にも同じようなお好み焼き屋さんが出てきたなー。あそこの店名は「ロマンチ」でした(笑。
それで、『夕つかたの水』でロマンのアルバイトとして登場した赤い口紅の「あけみ」さんが、『蛇は穴に入る』では介護士の谷口くんに「化粧の濃いおばさん」と思われ、『濡れた女の慕情』では同じアパートに住む川原清に「ただのばばあ」呼ばわりされ、『貝殻のある飾り窓』では「絵にならないおばさんだなぁ」と。そんなあけみさんの登場が、とてもおもしろかったです。知らない人から見た自分の印象ってどんな感じだろうか。
『貝殻のある飾り窓』がわたしは一番好きでした。牟田菜摘という主人公の後輩がとても印象に残りました。彼女の言動に心がざわつきました。彼女のような人が周りにたくさんいませんように。
最後の『ゆるく巻くかたつむりの殻』の主人公は意外な人でした。
みんな高望みをしているわけではないのに、生きているだけでつらいことはいっぱいふりかかってくる。そのどうしようもなさみたいなのが、最後にどーんときてしまった。それでもみんな、淡々と生きていくのだけど。
人生は短くて、悩んでいるうちにあっという間に終わってしまいそうです。そして終わったあとはずっとずっと長いんだろうな。それでも、誰かの記憶の底で自分のかけらのようなものが生き続けるなら...。
表紙の絵がとてもすてきで、この作品にぴったりだと思いました。
冬の読書:1
今日もやっぱり処女でした:夏石 鈴子

難しい本を読む気力はないと思ったので、なるべくさらっと読めそうな女の人の本ばかりたくさん借りました。
夏石鈴子さんの本は前に2冊読んであまり好きではなかったのだけど、さらっと読めたことに希望をいだいてまた借りてみました。なんとも大胆なタイトルですが、今まで読んだ中では一番好きだと思いました。
人生に迷ってる感じの派遣社員のあおばちゃん、24歳。彼女の『あの、神様。わたしのこと、お忘れじゃないですか。』という、心のお祈りが可愛くてにやにやしてしまいました。地味でたいした取り柄のなさそうなあおばちゃんですが、彼女の視点で描かれるお父さんやお母さんや同僚の福貴子さんの人物像にあたたかさを感じました。ときどき電車の中で会うだけの『ジャポニカさん』もなぜか応援したくなる。あおばちゃんはまわりの人をよく観察しているなぁ。その視点がとても優しくて、あおばちゃんの人柄がにじみ出ているという感じに好感が持てました。
なんらもなー
詩人のくらした家
茨木のり子の家

わたしはあまり詩を読まないので、茨木のり子さん、知らなかったのですが『私が一番きれいだったとき』はどこかで読んだことがありました。他の詩(散文?エッセー?)もなにか大切な事に気づかせてくれるような、けれどもそれが押し付けでなく自然と心にしみてくるようでした。
彼女が50年間暮らした家と直筆の原稿、それらの写真と詩。家はこじんまりとして大きくはありませんが、個性的で機能的で、よく使い込まれたぬくもりのあるおうちだと思いました。
茨木さんの写真もたくさん掲載されていますが、その中に谷川俊太郎さんの撮ったものもあり、それがとてもかっこいいのです。絶世の美女というわけではないけど、きりっとした日本人らしい美しさを持った女性だと思いました。憧れます。
母も茨木さんのことを知らなかったのですが、、もしかすると好きかもしれないと思い、遅めの母の日のプレゼントとして贈ってみました。そうしたら気に入ってくれたみたいで、他の詩集などを図書館で借りて読んでいるそうです。
わたしも他の作品を読んでみようと思いました。
こんがりさん
ミトン流シンプルテクニックのお菓子

ハンドミキサーの高速、低速を使い分けての混ぜ方から、三角混ぜ、サブレ混ぜ、フレゼ、ジェノワ混ぜ、サレ混ぜ。全部マスターすればロボット並みに正確に混ぜら分けられるようになるんでないかと思いました。
特にジェノワ混ぜは衝撃的で、合計で130〜160回ほど混ぜることになります。これまでの経験上かなりおっかなびっくりでしたが、今までのように粉を入れた途端に「しゅわ〜♪」と音を立てて泡が消えたりはしませんでした。
それでも型に流し込むと、思わず「やっぱり...」とがっかりするほど高さがないのですが(型の半分よりちょっと上ぐらい)、オーブンに入れるとみるみる膨らんで本当にびっくりしました。これはすごい。今後、スポンジケーキに悩ませられる時間が減ると思うと心底嬉しい。
リアルな主婦象
逆襲、にっぽんの明るい奥さま:夏石 鈴子

お茶くみ奥さま、レジ打ち奥さま、長生き奥さまなどなど、いろんな奥さまの短編集。物凄くリアルで、たぶん実話なのかな?
小学生ぐらいの子どもを持つ奥さまの話が多く、PTAについての話題など寒気がするほど身に覚えのあるエピソードばかり。現実的すぎて複雑な気持ちになってしまったのだけど、それでもあっという間に読み終わってしまいました。
リアルすぎる奥さまの中でも、不倫の末に略奪結婚した奥さまと、義理のお母さんに逆襲する奥さまの話が、自分にとっては非現実的でおもしろかったです。だけど、小説を読むというより、誰かの人生相談を読んでいるようだったかな。
わたしが本に求めていることは、せっかく時間を割いて読むのであるから、自分の生活とはちょっとかけ離れた世界であってほしいのかな。と気づきました。
川上弘美さんのような人は、きっとすごい速さでいろんな本を読んでいるんでしょうね。
愛情日誌:夏石 鈴子

そして3編目は、なぜか独身の銀行員女子(美人)が本屋でおっさんにナンパされるというお話なのですが、この3編の構成はいったいなんなのでしょう。
3編目が異様に浮いていて、前の2編でむなしくなったあとにこれを読むと、おばさんなんだかとっても落ち込んでしまいました。
このもてもての銀行員女子も、いずれは結婚して家事と育児に疲れ果てるのだと思うと、女の人生ってなんてつまらないんだろう。などと考えてしまいます。もっと楽しいはずだけどなぁ。
ライ麦畑で...
キャッチャー・イン・ザ・ライ:J.D.サリンジャー(著)、村上 春樹(訳)

マーク・チャップマンがこの本に影響されて、という以外なんの知識もなく読んだのですが、想像していたのとは時代背景から違っていて面食らいました。どうしてもノルウェイの森と重なってしまうのはどんなもんか。
おもしろかったのだけど、アラフォーの脳みそにはあまりなにも残りませんでした。なんだか、自分があんまり若くないということを付きつけられたようで悲しいです。
ホールデンの言動は世間知らずのおぼっちゃまにしか思えない部分が多かったけど、10代の頃、いやせめて20代前半の迷走していた頃に読んでいれば、少しは救われたかもしれないな。この先息子たちが人生に行き詰まっていそうなとき、すすめてみようかと思います。
映画が先か、原作か
冷血:トルーマン・カポーティ(著)、佐々田 雅子(訳)

カンザス州ホルカムで起きた一家4人惨殺事件を、5年間取材し完成させたノンフィクション小説の金字塔だそうです。覚悟はしていたけど、分厚い上に細かい字がびっしり。ページを開いた瞬間くらっとしましたが、読み進めるうちに夢中になりました。
映画では、新聞で事件のことを知ったカポーティが汽車に乗って取材に出かけるところから始まりますが、本には気配はあるもののカポーティ自身は出てきません。だけど場面場面で映画でのカポーティの言動が重なりますます引きこまれ、また殺人犯のペリー・スミスはクリフトン・コリンズ・Jrの悲しげな表情が焼き付いて、感情移入してしまいました。
おもしろい映画を見るとたいてい原作を読みたくなってしまうけど、先に原作を読んでいる場合とどっちがいいのかいつも考えてしまいます。時と場合によるかな。
事件の起きたホルカムの描写から物語が始まりますが、手に取るように情景が浮かんできました。事件の前後の犯人の様子と、事件を追う刑事の様子が絶妙の配分で構成されていて、逮捕の直前は読んでいるだけでドキドキしてしまった。
それにしても、事件の詳細を知れば知るほどやるせない気持ちになりました。根っからの悪党みたいな人もいるだろうけど、ペリーの孤独な人生を思うとかなしくなる。
食べて生きることの教え
あなたのために - いのちを支えるスープ:辰巳 芳子

和の汁物と洋風スープに分けて構成されていて(目次が図式になっていておもしろい)、スープの作り方だけでなく出汁のとり方や水や火のこと、様々な素材についても書かれていてとても興味深く読みました。個性的な文章ですが、時折乙女のようなユーモアが見え隠れしていて楽しいです。
しかし素材の選び方や料理への姿勢は、なかなか真似のできるものではないと思いました。すごすぎる。わたしにとっては料理の手順以前に、料理することの心構えを教えてもらっているようでした。
出汁のとり方ひとつにしても、わたしがいかにいい加減なやり方で作ったものを家族に食べさせているかということを思い知るわけですが。この先何度も何度も読み返して、心に残った部分を少しずつでも身につけていきたいなと思いました。
現在、本から学んで実践していることは、洋風のブイヨンに昆布としいたけを使うことと、スープを煮る際に梅干しの種を入れること。自家製の梅干しはとても美味しくて、種のまわりの実がもったいなくて仕方なかったのだけど、こういう使い方で少しでも滋養の増すスープが出来るのは嬉しいです。
「5分でできる〜」のような手抜きレシピもまぁ時には助かるのだけど、だけども軸の部分にはこういうしっかりとした考えを持てるようになりたいと思う今日この頃。あとはあふれてあまりない愛情も。 内容も外見もとてもしっかりとした本で、永久保存版になりそうです。